――2022年度にスタートした新中期経営計画の重点テーマは。
「3カ年の中期経営計画のコンセプトは『変革』と『成長』だ。今年はメタルワン設立から20年目であり、大人の会社になるという考えだ。川中である鉄鋼流通は川上のメーカーや川下のユーザーから様々な要求を受ける立場であり、サプライチェーンの中の無理や無駄を見直し、デジタルの力を活用し、業態変革を進め、先鋭的で高度なサプライチェーンに変えていく。成長については、一つは海外戦略だ。国内依存度が高かったが21年度の売上高で海外比率が60%超に上がっており、いよいよ海外に打って出る。国内事業を維持し、海外比率が7割程度となれば理想だ。成長のもう一つのカギはカーボンニュートラルに関する新たなビジネスの開拓だ」
――「業態変革」に取り組んでいる。
「昨年4月にタスクフォースを作り、業務の効率化にとどまらず、鉄鋼流通としての機能の高度化、先鋭化を検討している。10月にデジタル変革推進部を置き、各事業部からの提案で60件ほどのプランがあり、22年度を仕上げの年として具体化していく。組織を改編したが、3つの狙いがある。まずは会社組織のフラット化だ。昨年にタウンホールミーティングとして若手との対話を20数回行ったが、若手と経営トップのコミュニケーションの不足を感じた。組織が重層化するほど職制が長くなり、上からの指示や下からの意見がうまく届かなくなる。全社役員の下に営業担当役員、事業部長、課長、担当とあったが、事業部長と担当役員を一つにした」
「2つめは戦略機能の拡充で、戦略を立てて狙いを定めてから動く。事業部は5つあり、縦割りの性格が強いので新たに戦略企画室を設けて事業部間の連絡窓口となり、定期的にミーティングを行い、他の事業部が考えていることや事業部間のシナジーを議論する仕組みとした。3つめは海外戦略で、従来は事業部それぞれが実行してきたが、グローバル事業部を設置し、一元的に取り組む体制に変えた。これからも組織の改編を進め、成果を追求していく」
――海外展開で注力するエリアは。
「北中米だ。コイルセンター(CC)のコイルプラスと現地法人のメタルワンアメリカが一定の規模感で資金と人材を投入し続けており、ブランドバリューなどコイルプラスのアセットを核として展開する。次の手として建材の分野にどうアプローチしていくかが重要だ。追いきれていない分野だが市場として大きく、アクセスしていく。米国は電炉が多く、カーボンニュートラル(CN)の新しい事業領域であるグリーンスチールの先進的地域であり、両株主と連携してCNに関連した新しいビジネスに取り組む。この3年間は北中米に徹底的にこだわっていきたい」
――成長が見込める東南アジアやインドの展開は。
「国によって市場のステージが違う。それぞれの市場が求めるニーズ、機能が事業のベースになる。インドは建機向け厚板加工拠点のIMOPや自動車用鋼板を加工するCCを展開しているが、どう付加価値を上げていくかが課題だ。ASEANにもCCのネットワークを広く構えており、北中米に続くエリアとして今後も地に足をつけた事業にASEANとインドで注力する。中国は多くの拠点を展開しているが、市場の動向を注視して投資を考える。金利の上昇などビジネス環境のフェーズが変わっているので規模拡大一辺倒ではなく、資金効率の向上に軸足を移していく。投融資は21年度実績で67億円と減価償却の範囲内であったが、今後は北中米中心に規模感のある投資に挑み、リターンを得ていく」
――新規事業を育て次の柱とする計画だ。
「収益貢献の高い事業はメタルワンができる以前からあり、この20年間に新しい事業を増やせなかった反省を踏まえ、昨年に若手のチャレンジ精神を喚起する『事業創造チャレンジ』として新しい公募型研修プログラムを始めた。さらに今年度は国内外の全社員から新規事業を公募する新規事業案募集制度を立ち上げた。いろいろなアイデアが寄せられ、出選考中だ。CCの設備を製造している協和製作所を完全子会社化し、省人化・無人化の取り組みを進めたが、鉄鋼製品事業の範囲を超える案件など集まったアイデアについて真剣に議論している」
――CNへの取り組みは。
「守りと攻めの2つがあり、守りは温室効果ガスの削減だ。当社グループでのCO2排出は、CCの加工や運送に関わるものが多いが、産業界のコンセンサスの2030年の半減、50年のネットゼロに向けて具体的なロードマップを策定し実行する。攻めについては、脱炭素によって鋼材の価値が造り方で変わるので、商社にとってチャンスと捉えている。カーボンクレジットにどう向き合い、グリーンスチールなど価値のすみ分けができるなかで商社がどのようなポジションがとれるか。北中米でのグリーンスチールの展開は、両株主との連携を踏まえて総合商社系として総合力を発揮し実行したい」
――21年度は業績が大幅に改善した。
「鉄鋼需要が世界的にコロナ禍から回復に向かい、資源価格の高騰によって鋼材価格が高位で推移したことが追い風となり、当社の当期純利益は281億円と前年比4・3倍となった。過去をみると、05―07年の頃は中国の需要増の影響を受けて300億円を超えたが、リーマン・ショック以降は200億円前後で推移し、コロナ禍が直撃した20年度は66億円に減少した。21年度はリーマン後で最も良い結果となったが、ここ数年不採算事業からの撤退を進め、事業ポートフォリオを改善した取り組みの効果も得たのは間違いない。連結対象は116社と20年度末から9社減少した。不採算事業の見直しはほぼめどがつき、中期経営計画の中で数はさほど変わらないと思うが、これからは循環型のシステムをどういう仕組みで回していくかが課題となる。事業にはライフサイクルがあり、ピークアウトした事業は入れ替え、新規の事業を取り込んで回していく」
――22年度上期の状況と下期の見通しを。
「海外の鋼材市況は下がっているが国内は依然堅調で、4―6月期の利益は昨年の好調なモメンタムを引き継いだ。7月以降は資源価格が下がり、市況を支えていた要因が変化している。自動車の挽回生産がなかなか実現されず、7―9月期は鈍化する。下期のポイントは自動車生産がどうなるかだ。当社は自動車分野への依存度が高いが、半導体など部品供給のサプライチェーンが回復し、自動車生産が戻ることを期待している。前年並みの利益計画は変えていない。今は自動車生産の回復が遅れているので国内外で鋼材在庫を抱え、鋼材価格の上昇も加わり、金利上昇に対するコストが増えている。加工賃に適切に織り込み転嫁していく。運賃や人件費の上昇も国内外で共通している。時代の変わり目であり、状況を見極め、リスクを管理していく。在庫についても今まで以上に注目し、我々が持つべきものなのか、コストを誰が負担すべきなのか、整理してしっかり転嫁していく」(植木 美知也)