――新社長としての抱負から。
「鉄鋼ビジネスをメインとし、プライマリーメタル、リサイクルメタル、食品、エネルギー・生活資材、木材なども手掛ける独立系の専門商社として発展し、本年4月に75周年の節目を迎えた。長期化するコロナ禍にロシアのウクライナ軍事侵攻が加わり、経営判断はより難しくなっている。諸先輩方が築き上げてきた良きDNAを引き継いで開拓者精神は忘れず、新たな時代を見据えて変えるべきところは変えていく。100年企業を目指し、取引先、株主、社員をはじめとするステークホルダーの期待にしっかり応えていきたい」
――経営方針を。
「20年度から22年度の3年間を対象とする第9次中期経営計画の基本方針は『Run up to HANWA 2030-いまを超える未知への挑戦-』。全体像を建物に例えて『ESG、SDGsに根差した経営』を基礎とし、1階部分に『経営基盤の強化』を据え、その上の2階部分を『事業戦略の発展』、3階部分を『投資の収益化』とし、それぞれの重点課題を設定した。経営環境は大きく変化しているが、脱炭素社会への対応など時代の潮流は変わらない。中計の基本方針を維持して攻めと守りをより徹底し、戦術を柔軟に見直していくことで持続的成長は十分に可能と考えている」
――「経営基盤の強化」の進捗状況は。
「キャッシュフローを重視し、バランスシート、資本構成の最適化を追求している。22年度の連結経常利益目標を300億円とし、30年度のゴールを経常利益500億円とA格の取得に設定した。20年度業績は売上高1兆7455億円、経常利益288億円だった。21年度予想はそれぞれ2兆1000億円、620億円となり、格付けは『BBBプラス』から『Aマイナス』に引き上げられ、30年度のゴールを通過する見通しとなった」
――財務目標については。
「22年度末の株主資本を2000億円以上、ネットDERを1・3倍程度と設定した。21年12月末の株主資本は2115億円、ネットDERは1・4倍だったが、ロシアの軍事侵攻後にロンドン金属取引所のニッケル先物相場が急騰。ヘッジ取引の評価損に係る資産と負債が1836億円増加した。発生した損失は取引先に帰属するもので、当社は評価損に係る資産と負債が同額計上されるのみ。損益への影響は軽微なものにとどまるが、追加の証拠金の調達で借入金が増えたため、3月末時点のDEレシオは跳ね上がるだろう。財務健全化には逆行する格好となっているが、幸い収益は予想を上回るペースで拡大している。新基幹システムを活用して財務・収益構造の見える化を進め、収益力強化をバランスシート強化に結びつける好循環の流れを確実なものにしていきたい」
――新基幹システムについて。
「経営指標をタイムリーに把握でき、業務効率化や属人的ワークフローを自動化・機械化するRPAやAIの導入も視野に入れたDX戦略の要となるもので、DX認定も取得した。本年4月の稼働を予定していたが、安定稼働と機能拡充のため本年度内の立ち上げを目指している」
――与信管理の重要性が高まっている。
「大型案件は経営会議で検討し、管理を徹底している。担保を設定し、保険はグループ全体の事業を把握する専門子会社が管理し、毎年見直している。大手の保険会社に専用の商品も設計してもらうなど、不測の事態を想定して手厚くカバーしている」
――配当政策について。
「今中計では、内部留保の蓄積による財務基盤強化を優先する方針を打ち出した。年間配当60円を基本水準と設定したが、21年度は100円に引き上げた。配当性向は10%前後で低いとの指摘は認識している。配当性向30%が基準のように言われるが、その根拠は明確にされていない。30年度目標を前倒しで達成することを踏まえ、収益目標を見直すとともに新たな配当政策も打ち出したい」
――「経営基盤の強化」では、人材育成もテーマに掲げる。
「商社の財産は人。第9次中計では、『プロフェッショナル&グローバル人材の育成』をテーマに掲げ、人材育成を強化する。ソリューション型の営業人材や経営人材を育成するため、オンライン上に企業内大学『ハンワ・ビジネス・スクール』を創設する。ITレベルを高める工学部、産業の歴史を学ぶ文学部、ビジネススキルを磨く商学部、英語・中国語を習得する外国語学部などを設置。とくに若手のモチベーションを高めるツールとして活用。人材のダイバーシティを加速し、地産地消の流れに対応するためナショナルスタッフの育成にも注力する」
――2階部分の『事業戦略の発展』について、投融資スタンスを。
「国内は鉄鋼を中心に『そこか』戦略を展開し、本体では手が届きにくいマーケットに小回りを利かせて参入。海外はマイナー出資にとどめながら、中国、東南アジアに数多くの投資を積み重ねてきた。第8次中計までに大型の新規投資案件は一巡しているので、今中計では投資先からの収穫を積み上げる。一方で縮小均衡を避けるため従来規模の3年間500億円の投資枠を設定している。既存事業に加えて再生可能エネルギー、バイオマス、スクラップ、電池の原材料などを対象に、全社横断的なアプローチを加えることでビジネスチャンスを創出し、収益基盤を広げていく」
――社内横断的なアプローチとは。
「営業部門がそれぞれ企画・立案する従来型の投資案件とは別に、21年4月に立ち上げた『事業開発推進チーム』が将来有望な案件の事業化を主導していく。金融機関など外部の情報ソースを活用し、待ちから攻めのスタンスに転換してM&Aの対象を拡張し、ESG・SDGsに関連した新たな事業を創出していく」
――鉄鋼事業について。
「国内は西日本中心に展開してきた『そこか(即納・小口・加工)』戦略のエリアを全国に広げる。とくに東日本エリアでの事業提携やM&A、アライアンスを第2次『そこか』戦略として推進する。併せて加工機能や図面積算機能を活用した垂直統合型ビジネスの強化、物流機能改革によるサプライチェーンの再構築などを通じてトレーディングの高付加価値化も図っていく。海外は『東南アジアに第二の阪和を』のスローガンを掲げ、インドネシアを中心とした青山実業グループや徳龍鋼鉄グループ、大明グループなど中国の戦略パートナーとのアライアンスや協業を強化している。ジャカルタの現地法人は200人態勢で、シンガポール、タイ、ベトナムとともに域内の地産地消型ビジネスをさらに拡大。1000万トン規模だったグローバル鉄鋼取扱量を1500万トンに引き上げる目標を設定したが、21年度は1400万トンを超えており、さらなる高みを目指したいと考えている」
――メタル事業は。
「プライマリーメタル事業は、インドネシアにおける青山実業グループのニッケル銑鉄・ステンレスプロジェクト、南アフリカのクロム事業など戦略的投資からのリターンを確保しつつ、21年4月に新設した『電池チーム』による二次電池、燃料電池関連ビジネスの多角化を進めていく。リサイクルメタル事業は、アルミ、銅、錫や亜鉛などのスクラップ仕入れソースを拡大。いずれもコロナ後の需要回復期に向けての戦略的投資を行い、収益基盤を拡張していく」
――食品、エネルギーなどのビジネスは。
「事業ポートフォリオの拡充は経営課題のひとつ。食品事業は、国内の人口減少を見据え、得意とする水産物の輸入ビジネスに加えて、畜産品など商材の拡充と加工機能の強化を図りつつ、東南アジア、中国の日系チェーン店向けのビジネスを開拓していく。エネルギー・生活資材事業は、化石燃料からのエネルギー転換を好機と捉え、3割のトップシェアを握るパーム椰子殻や木質ペレットなどバイオマス燃料の輸入ビジネスを拡充。その他事業では、トップシェアを持つ住宅用の木材輸入ビジネスの三国間取引を拡張していく」
――3階部分の「投資の収益化」は「経営基盤の強化」に直結する。
「青山実業グループとのインドネシアのニッケル・プロジェクトは、原料調達から製品販売などの商社機能も発揮しており、高純度ニッケル化合物を鉱石から一貫生産するQMB事業に発展した。8%を出資するQMBは、中国の総合リサイクル最大手のGEM、世界最大の車載用二次電池メーカーとなった中国のCATLグループ、青山実業グループと当社の4社合弁事業で、硫酸ニッケル、硫酸コバルトの生産を本年中に開始する。メキシコでは、バカノラ・リチウム社の高純度炭酸リチウム製造工場が23年に稼働する。南アフリカでは、白金、ニッケル、銅などの電池材料を生産するウォーターバーグ・プロジェクトに現地のインパラ・プラチナム、日本のJOGMECなどと共同出資し、24年の稼働開始を予定する。南豪州にグラファイト鉱山を保有し、負極材向けの球状化黒鉛の製造を計画するリナスコール・リソーシズとも合弁事業の協議を進めている。これらの戦略的投資からの収益化が本格化する」
――鉄源も拡張する。
「中国の徳龍鋼鉄グループと青山実業グループがインドネシアのスラウェシ島に新設した高炉一貫製鉄、徳信鋼鉄は、高炉2基の年産350万体制で操業を続けており、本年末に第3高炉が稼働すると700万体制となる。徳信鋼鉄に10%を出資し、商社機能を担っている。インドネシアはCO2を吸収する森林が多く、環境規制は相対的に余裕がある。徳信鋼鉄は新たに1400万トンの高炉一貫製鉄所プロジェクトについてインドネシア政府と合意している。一方、中国政府は環境規制の一環として国内の高炉操業規制を強化しており、新プロジェクトはビレットやスラブなど半製品の販売先に困ることはない」
――本年4月に75周年を迎えた。
「諸先輩が築いてこられた財産をしっかり継承したい。90年代の財テク危機では、金融機関や取引先をはじめとするステークホルダーに支えていただいたことを忘れず、100年企業に向けて事業をさらに拡充していきたい。10周年を迎えた1957年に初代社長の北が創設した『阪和育英会』を通じて学生の就学支援を続けてきた。75周年の節目を迎えて、社会貢献活動もスケールアップしていきたい」
――社員への期待を。
「インプット以上のアウトプットはあり得ない。常に向上心、好奇心を持って学び続け、人の意見にも耳を傾けて、決める時は腹をくくる。活躍の舞台を国内外に広げていくので挑戦を続けてほしい」
――長期ビジョンを。
「鉄鋼事業による収益が全体の6割を占めている。鉄鋼を伸ばしつつ、中長期的には鉄鋼以外が収益の5割を確保できる収益構造に転換することで、連結経常利益を1000億円規模に引き上げていきたい」(谷藤 真澄)
【プロフィル】
▽中川洋一(なかがわ・よういち)氏=86年中大経卒、阪和興業入社。国際財務課を経て91年から13年間、ニューヨークに駐在。「モーゲージ債のデリバティブ等を担当し、本場のインベストメントバンカーと付き合う貴重な経験を積み重ねた」。94年以降は財テクの手仕舞いに追われるが、経理・総務など管理部門も幅広く経験。帰国後は主に管理畑を歩み、18年からは管理部門に加えて現在のリサイクルメタルやプライマリーメタル部門などで経験を広げてきた。
「営業力を強みとする阪和興業にとって、保守本流ではない管理畑の出身。前任社長で会長の古川、鉄鋼ビジネスに精通する加藤副会長と性格も得意分野も異なる3人体制で経営を担っていく」考えで、「古川会長の社交ダンスやギターのような趣味を探し、人の輪とビジネスを広げていきたい」としている。
趣味は車で、週末は愛車でドライブしてリフレッシュしている。
04年関連事業部長、09年経理部長、14年執行役員、16年取締役常務執行役員、17年取締役専務執行役員管理部門統轄、18年同非鉄金属・金属原料・特殊金属総轄兼管理部門統轄。22年4月社長就任。61年8月14日生まれ、東京都出身