国内の鉄スクラップ相場が10日に急騰した。ロシアのウクライナ侵攻が世界に鋼材や鉄スクラップの供給不安をもたらしている。電炉大手の東京製鉄は10日に全5工場で鉄スクラップ購入価格をトン当たり3000―4000円上げ、代表品種のH2に相当する特級品種の買値は4工場でトン6万円に乗った。他の電炉メーカーや輸出業者も東鉄の動きに追随し、H2相場は直近安値の1月末時点からトン8000円前後上昇。中国が春の鋼材需要期を迎えることも市況の強気材料になっている。
関東 輸出けん引3000円急騰
関東地区の鉄スクラップ相場が10日にトン当たり3000円急騰した。東京製鉄・宇都宮工場は10日入荷分から買値をトン3000円上げ、他電炉メーカーや輸出業者もおおむね追随。ウクライナ危機や中国の春需が需給を大きく引き締めた。一部の関東電炉のH2買値は2008年8月以来、13年8カ月ぶりにトン6万円台に上り、まれに見る高値水準に至っている。
関東鉄源協同組合が9日に実施した3月契約分の鉄スクラップ輸出入札の落札価格がトン当たり6万3510円(H2、FAS=船側渡し)の高値を付けたことで市中の先高観が決定的となった。市中の鉄スクラップ加工業者は出荷を遅らせており、荷動きは「著しく停滞」(複数の電炉購買担当、輸出業者)しているようだ。
9日時点の関東電炉メーカー購入価格(H2)は中心がトン5万9000―6万500円前後、湾岸価格(H2)の中心は同6万―6万2500円前後。
1月以来、中国の春の鋼材需要期を見据えた韓国やベトナムが鉄スクラップの買いを強め、日本の相場をけん引してきた。「在庫が潤沢になった」(商社)とみられる2月下旬に一時的に韓・越からの引き合いが緩んで輸出価格も下がったが、先月24日にロシアがウクライナに侵攻して以降、世界的に鋼材や鉄スクラップの供給不安が生まれ、日本への鉄スクラップの買いも再び強まっている。
中部 電炉、今期の最高生産
中部地区の鉄スクラップ相場も大幅続伸した。トン3000円方の全面高は昨年5月以来。これにより、H2炉前中心値は2008年8月以来となる同6万円水準となった。4月からの電気料金の値上げも視野に、今月の東海地区主要電炉7社の粗鋼生産量(ステンレスを含む)は合計55万トン水準と今期最大となる計画で推移している中、トルコ向け商談価格の急上昇が東アジアマーケットに波及。当面メーカーの入荷維持へに向けた対応が続く見通しだ。
先行して値上がりしていた湾岸集荷価格は、足元新断でトン6万4000円どころ(10日時点)に上伸。ただ年度末環境に市中業者の利益確定売りもあることで湾岸在庫水準は急速に上昇しており、一部で荷止めも見られる状況だ。
関西 市中出荷ペース鈍る
関西地区の鉄スクラップ市場は10日、海外高などを受けて相場が急騰した。海外でロシアのウクライナ侵攻や欧米の経済制裁による鋼材・半製品供給不足が深刻化するとの見方が広がっており、鉄鋼原料の鉄スクラップ需給も急速に引き締まっていることなどが国内相場を押し上げている。
同地区電炉メーカーの鉄スクラップ購入価格(10日時点)は、指標品のH2でトン当たり5万9500―6万500円前後。大阪電炉の10日からの上げ幅は共英製鋼枚方事業所がダライ粉をトン1000円、ほか3000円、合同製鉄大阪製造所がヘビー類をトン3000円、ほか4000円、その他の6社6工場は一律トン3000円。姫路地区電炉メーカー4社も同日から一律トン3000円買値を引き上げた。
ウクライナ危機に伴う国際相場の上昇を受けて先高観が高まり、市中ではメーカーへの出荷ペースを鈍らせる動きが広がっているようだ。「メーカーの炉前在庫は低水準」(流通筋)とみられる中、今月中には5000トンの鉄スクラップ共同輸出の船積みも予定される。来週末からは3連休も控えており、「需給ひっ迫状態に拍車をかけそうだ」(商社)との声も聞かれる。