――需要動向をどうみているか。
「自動車生産は減産が2月も続き、21年度の生産台数の想定を引き下げて800万台を下回る公算は大きい。半導体や部品供給不足、物流面の混乱も含めた減産であり、自動車の需要自体は強いとみている。引き続き部品供給制約による影響と自動車メーカーの回復動向を注視していく。建設機械はインフラや北米住宅投資などの好調を受け堅調を維持。中国市場は建設市場の減速が聞かれるが製造業は底堅く、中国向けが多い日本の産業機械の生産は堅調に推移している。土木は国土強靭化の中で堅調な需要が続き、建築関係は物流倉庫や首都圏再開発が好調、店舗・事務所などでもで動き出しが見られる。造船は、日本の手持ち工事は概ね2年ほどあり、カーボンニュートラルに向けた動きから環境性能の高い船舶の発注も増えてくる。海外はインドの需要の戻りが少し鈍く、欧州やトルコでも需要減退が見られる中で、インド材やロシア材の動きは要注視であるが、東南アジアでは熱延市況が750ドル程度をボトムに底を打ち、米国でも異常な高値は修正されているものの依然高い水準にある」
――中国市場の変化は気がかりだが。
「昨年後半に減少していた中国の粗鋼生産が12月に大きく増加した。足元は冬季北京五輪などで生産は制限されていたが、仮にある程度粗鋼生産が増えた場合でも、需要が堅調であれば輸出が増えることはないとみている。需要が春にどれほど戻るのか。中国の粗鋼生産が増えれば原料価格は高止まりするだろう。鉄鉱石価格については高い水準での変動が大きく、投機的な動きも影響していると見ているが、引き続き中国の生産・輸出動向について注視していく」
――鉄鋼事業と商社事業の利益が増え、連結事業利益の通期予想を上方修正した。
「鉄鋼事業の通期セグメント利益予想を前回11月公表時から230億円上方修正し、3030億円とした。販価・原料では主原料コストが高位で推移する中で国内の販売価格の改善が進みプラス70億円となる。数量減で90億円のマイナス。棚卸資産評価差等は、原料炭の価格上昇もあり150億円のプラスだ。米国市況が堅調を維持し、出資先のCSIも業績は良好だ。インドのJSWスチールも好調を持続し、自動車用鋼板を製造する各拠点は中国がフル操業でタイとインドネシアも大幅に改善している。商社事業は国内外の鋼材需要が堅調であり、特に北米グループ会社の業績が年度末に向けても引き続き堅調に推移することが見込まれ、530億円と80億円上方修正した。エンジニアリング事業は海外案件の出件の期ずれで受注高は下方修正したが、通期利益は予想比横ばいの250億円を確保する」
――販売価格は第2四半期から第3四半期にトン6600円上がり、第4四半期はさらに7400円上がって11万5000円と期を追うごとに価格が上がっている。
「主原料コストの早期反映を中心とした販価改善に継続して取り組んでいる成果だ。主原料と諸物価のコスト上昇により、鉄鋼事業の在庫評価益を除く実力損益は第3四半期に赤字となったが、販価改善を確実に進めたことで第4四半期の鉄鋼事業の実力損益は600億円ほどのプラスを想定している。上期から第3四半期にかけて棚卸資産評価差等の影響が大きく出たが、年度の実力損益は1270億円となる。来年度をみる上では第4四半期の実力損益600億円が一つのベースとなる。第4四半期も主原料価格は高位で推移し、合金鉄や鉄スクラップなど副原料も高止まり、ガスなどのエネルギーコストも上昇値している。販価改善は22年度以降も行う必要があり、足元すでに取り組みを進めている」
――21年度の単独粗鋼生産予想は2600万トンと前回予想から50万トン下方修正した。
「前回予想時は上期のマイナス分を下期に取り返して2650万トンとしたが東南アジアの市況軟化や自動車の減産を踏まえ、数量を挽回することはせず、下期に予定していた設備工事を計画通り進め、価格優先の合理化生産を実施している。来年度の生産は自動車生産回復に伴う鋼材需要の増加も踏まえ、今年度より増える見込みだが、9月に東日本製鉄所千葉地区の第6高炉の改修工事を予定しているため、足元の設備工事を着実に実施し、増産に備えていく」
――22年度の重要課題は。
「リスク要因は米中、露関係や米国の政治・経済動向、中国の景気減速、コロナ禍、東南アジアやインドの経済動向などが挙げられるが、国内の需要は自動車の挽回生産が見込まれ、回復基調が続く。高炉メーカーが構造改革で生産を抑えていくので需給はタイトな状況に向かうと見ている。一方で合金鉄などの諸物価、エネルギーコストの上昇などを販価に反映しきれておらず、お客様に丁寧に説明をしながら引き続き販価改善に取り組んでいく。主原料価格の早期反映は概ね定着したが、エキストラの見直しなどの取り組みは途上であるためさらに加速させていく」
「23年度の構造改革を踏まえ、中期計画で掲げた量から質への転換、トン当たり利益1万円に向けて、選択と集中の観点から安定的な収益確保が見込めない品種・分野は縮小していく。京浜地区の高炉休止に向けて品種の移管が始まるため、体制を整えていく。需要が増える無方向性電磁鋼板については倉敷地区の能力増強をきっちりと進める」
――海外はどうか。
「中国の事業会社はGJSSはじめ堅調で東南アジアのCGLも改善が進む。ニューコアと合弁のメキシコのCGLはお客様の承認の取得を着実に進めていく。新たにCSIの出資者となったニューコアと関係を深めていくことも重要となる。JSWスチールと方向性電磁鋼板の合弁事業の議論を進め、FHSについても将来的な東南アジアの需要を確実に捕捉するべく引き続き関与を深めていく」
――中期計画の連結事業利益目標3200億円を上方に修正する可能性は。
「市場の変化や京浜の高炉休止など中期の前提と状況が異なるので、今の時点で見直しは考えていない。足元のスプレッドをみると主原料価格の上昇分は販価に反映できているが、諸物価の高騰分は道半ばと認識している。棚卸資産評価差等を除く事業利益では、あと1000億円ほど改善しないといけない。コスト削減は残り3年間で900億円の改善を見込んでいる。事業環境に関わらず、素材メーカーとして付加価値の高い製品を安定して供給することができる経済的持続性を確立していくため、販価改善などの諸課題に取り組んでいく必要がある。また、カーボンニュートラルに向けた研究開発をどう進めていくか。30年のCO2排出削減目標を30%以上と前回までの20%以上から引き上げたが、カーボンリサイクル高炉など画期的な新技術を前提にしているわけではない。前回の公表時点から比較すると既存設備でのCO2削減技術の適用範囲拡大や複線的に取り組んでいる技術・研究開発の進展を見込んでいる。要素技術開発に関する専門組織を複数新設し、またカーボンニュートラル推進会議を設置し、既存技術の適用範囲の拡大、新規削減アイテムなどを積み上げ、一定の手応えが得られている。カーボンニュートラルに向けては超革新的技術の開発が重要であり、引き続き研究開発に取り組んでいく」(植木 美知也)