――2021年度をどのような年と捉えているか。
「コロナからの経済回復と脱炭素の動きの本格化、中国の鉄鋼供給政策の変化、この3つの要因によって世界の原料需給と鉄鋼需給に大きな構造的変化が生じ、原料市況・鋼材市況が高騰し、高止まった1年だった。各需要分野の活動が回復する一方で、半導体を含む各種資材不足、物流ネックによって各需要分野における減産が拡大した。グローバル化した市場におけるサプライチェーンの重要性を再認識した。こうした状況を受けて当社は21年度にとりわけ紐付き価格に最優先課題として取り組んだ」
「各国の経済回復に伴い、世界の鋼材需要は前年から増加した。不動産投資や建設需要の減退などによる中国の需要減速による影響は懸念されたものの、脱炭素社会への転換を背景とした中国政府の鉄鋼供給政策の変化によって粗鋼生産は前年より減少し、鋼材需給のタイトな状況が継続した。国内も製造業を中心にコロナからの回復に伴って需要が回復し、半導体不足や物流停滞などサプライチェーンの混乱に伴い大きな影響が出たが、21年度の鋼材需要は5570万トン程度まで回復(20年度約5300万トン)する見通しだ。世界の鋼材需要の回復、脱炭素の動きの本格化、自然災害やコロナ影響による供給能力の制約に伴って、鉱石・石炭を含む原料価格が高騰し高止まりしている。鋼材需給のタイト化と原料コストの上昇で国際鋼材市況も高止まりしている」
――22年度、世界の鉄鋼市場をどう読むべきか。
「21年度に原料と鉄鋼の需給に構造的変化をもたらした3つの要因(コロナからの経済回復と脱炭素の動きの本格化、中国の鉄鋼供給政策の変化)は22年度も継続する。世界の鋼材需要は19億トンと21年から2・2%増えると世界鉄鋼協会は予想している。脱炭素を背景とした中国の粗鋼減産と輸出抑制、輸入促進の政策は継続され、中国の鉄鋼需給の動きが世界の鉄鋼需給の攪乱要因となる懸念は少なく、鋼材需給のタイトな状況が続くと想定する。世界の鋼材需要の回復と脱炭素の動きの本格化、自然災害とコロナ影響による供給能力制約の懸念は続く。鉄鉱石や原料炭に加え合金鉄などの副原料、原油や輸送などの外部コストはさらに上昇し、これらの価格は諸要因によって高いレベルで大きく変動する懸念がある。鋼材市況はASEANで調整の動きが足元見られるが、原料市況の上昇やコロナ感染影響からの需要回復によって年度後半に向けて回復し、高い水準を維持すると予想している」
――国内の需要は底堅い。
「内需は回復基調が続く。建築分野では設備投資の増加に加え、再開発案件の着手が進展する。土木分野も国土強靱化関連需要などによって高水準を維持する見込みだ。製造業では自動車や造船、建機の分野など需要の回復は顕著だが、問題はサプライチェーンの混乱からの回復の時期だ。22年度の鋼材需要を5700万トン程度と想定している。サプライチェーン混乱からの回復には時間がかかると考えており、一定程度影響を織込んでいるが、自動車生産は年度後半にかけて増え、全体の需給に大きく影響せず、需給はさらにタイト化する見通しだ」
――21年度は紐付き・店売りとも大幅な値上げを実行した。22年度は価格是正や商慣習の見直しなど営業施策をどう進めていくか。
「マージン改善と価格決定方式の見直しに引き続き取り組む。21年度はとりわけ紐付き価格の改善に最優先課題として取り組み、一定水準のマージン改善を実現した。22年度も鉄鉱石や原料炭、副原料などを含めた外部コストが上昇すると想定しており、この上昇する外部コストをサプライチェーンにおいて公平に分担いただき、商品の価値とユーザーへの貢献を反映した適正な紐付き価格を実現することが最優先課題となる。また、脱炭素の動きの本格化を背景に資源・エネルギー価格は継続して上昇し、カーボンニュートラルへの転換に向けて当社として莫大なコスト負担が想定されることから、今後とも適正な紐付き価格の実現は重要課題となる。こうした事業環境を迅速に捉え、製品価格に適切に反映するため、交渉時期の前倒しや契約期間の短縮化などの価格決定方式の見直しを顧客にお願いし、期が始まる前に価格を決めるなど互いに合理性を認識し、一定の理解を得られている。現在、22年度第1四半期の価格交渉を行っており、新たな価格決定方式をしっかり定着化していく」
――最適生産体制への早期移行で競争力を強化する方向だ。
「公表済の最適生産体制構築などの諸施策を完遂する。内需の将来の縮小や海外における自国産化の流れに変化はなく、顧客のご理解、ご協力を得ながら確実にやり抜く。厳しい事業環境下でも顧客ニーズに応える高付加価値商品の比率を向上させることで品種高度化を図り、国内の能力は縮むが競争力のある設備で集中生産することによって収益力を向上させる」
――脱炭素の中で電磁鋼板など需要が増える商品がある。戦略商品の販売をどう強化していくか。
「当社の技術開発力と高付加価値商品を安定生産する製造力を活かし、国内外の顧客との総合的な取り組みを一層深化する。また、脱炭素社会の実現に向けたニーズも踏まえて対応する。脱炭素の動きが本格化する中、省エネ、エネルギー源の脱炭素化、CO2の分離・回収・貯蔵・利用といった分野での新商品開発ニーズが高まる。各分野の研究開発・商品化を進めており、先進性を当社グループ全体として生かせるよう対応していく。再生エネルギー関連の新規需要としては風力発電の基礎部や太陽光発電関連向けの鋼材、水素関連ではすでに発表している水素ステーションに使用される高圧水素用ステンレス鋼の他にも水素の製造・輸送・貯蔵設備向けに高強度の鋼材が見込まれ、新製品の開発を進めている」
「自動車分野では車体軽量化と高強度化ニーズへの対応として、鉄鋼素材のみで車体重量30%の軽量化を実現した車体設計ソリューション(NSafe―Autо Cоncept)を顧客に提案する。生産対応としても東日本製鉄所君津地区で最新鋭の新めっきラインを立ち上げ、名古屋製鉄所で次世代熱延ラインを新設する予定。電動化への対応として高級電磁鋼板の需要を捕捉するため、八幡・広畑における能力・品質向上のための設備投資に着手済みだ。今後需要がさらに増えるのであれば、必要に応じて対策を打っていく」
――海外事業の強化策は。
「海外における鉄鋼生産の自国産化の流れは確実に進展する。当社は海外の成長する需要を捕捉するために、他社に先駆けて品種・地域ごとに最適な形での海外現地生産を推進してきた。品種戦略に基づく下工程拠点の体質強化を進めるとともに、現地の需要全体を捕捉する一貫生産体制についても着実に強化している。具体的には、タイで電炉・熱延での鉄源一貫製鉄所の買収を公表した。引き続きインド事業の拡充や新たな案件を模索していく」
――鉄鋼サプライチェーン一貫の競争力強化についてどう考えるか。
「鉄鋼を取り巻く環境が大きく変化する中で、流通・加工を含めたサプライチェーン一貫での競争力を強化していくことが重要だ。鉄鋼商流における当社・流通・加工の機能分担を最適化し、新規需要の捕捉などの重要課題に戦力・資源を集中していく。DXを活用した付加価値向上や業務基盤の効率化・強化といった一貫での競争力を強くするため、関係先と連携して取り組んでいく」(植木美知也)