日本という異国の地で、鉄鋼業界の営業職に奮闘するグローバル人材がいる。中国出身の谷金(コク・キン)さんと台湾出身の廖柏森(リョウ・ハクシン)さんだ。ともに輸入鋼材を主に扱う鉄鋼商社、大成興業(本社=大阪市中央区、北野登社長)の本社営業部に所属。子供のころから日本文化に親しみを感じ、それぞれ留学や旅行などを経て日本で働く夢を持つようになった。来日のきっかけや入社の経緯、現在の仕事内容などについて聞いた。
――日本に興味を持ったきっかけを。
谷「日本のアニメが好きで、小学生の時から漫画『ONE PIECE(ワンピース)』の翻訳版を読んでいました。また母方の叔母が福井県に住んでいて、中学生の頃に初めて遊びに行ったのを覚えています。温泉が好きで、ますます日本に興味を持ちました」
廖「台湾でもワンピースはもちろん、『NARUTO―ナルト―』や『名探偵コナン』など、日本のアニメが日常的にテレビで放送されていたので親近感を持っていましたね。アニメ自体は字幕版と吹き替え版があるのですが、主題歌だけは日本語のままなので、自然と日本語を耳にする環境でした。大学1年生の時に旅行で初めて大阪府、京都府、奈良県を訪れ、風景などが美しく気に入りました。今では京都府の貴船神社が一番お気に入りの場所ですね」
――来日のきっかけを。
谷「中国北部の遼寧省・瀋陽出身で、現地の山西農業大学を卒業後に来日。叔母のもとで日本語学校へ通ったのち、京都大学大学院で森林科学について研究していました」
廖「国立台湾大学で日本語と経済の2つを専攻しており、3年生の時に交換留学制度に応募して来日。京都大学経済学部で1年間学んでいました。日本では珍しいかもしれませんが、台湾では、2つの学問を専攻するのはよくあることなんです。留学制度の都合で日本では経済を学びましたが、英語以外で何か語学を学ぶなら、物理的に距離が近く、歴史的背景から文化面での影響を受けている日本の言葉が総合的に一番いいなと思っていましたね」
――入社の経緯は。
谷「日本で長く働きたいと思っており、将来性が高いと感じる鉄鋼業界に絞って会社を探していました。大成興業は中国鋼鉄(CSC)など海外とのやりとりがあり、自分の語学力を生かせるのではと思い志望しましたね。私は中国出身ですが母は台湾人で、祖母のいる台湾に小さいころから何度も行っており、日本だけでなく台湾にも親近感を持っていました」
廖「台湾の大学を卒業後、初めは何がしたいか定まっておらず、日本の人材派遣業で正社員として約1年半働きました。いったん帰国して自分を見つめ直し、日本語の知識を生かせて、かつ長く働ける日本の会社に入りたいと思い、改めて求人を探しました。大成興業の採用情報を見つけた時、『中国語(繁体字)が使える方も歓迎』と書かれていて、台湾で使われている言語・字体なので、必要としてもらえるのではと思い応募。台湾から格安航空(LCC)に乗って面接を受けに行きました。最終面接を受けた後、帰路の関西国際空港内で取締役から『来月1日から来てください』と内定の連絡が。決まってうれしい半面、ぼんやりとしかイメージしていなかった鉄鋼業界へ入ることに若干の不安もありました」
――中国・台湾も鉄鋼業界の中で大きな存在感を持っている。
谷「大学院を卒業後、日本の鉄鋼業界で働きたい、日本で生活の比重を高く置きたいと思っていました。中国の鉄鋼業界ももちろん魅力的ですが、両親や叔母とも相談した上で決めました」
廖「CSCは台湾を代表する企業で、社員はほとんど公務員のようなものです。安定もしていて台湾ではとてもイメージが良いのですが、理系の人が就職する印象が強く、文系学部出身の自分は考えもしませんでしたね」
――谷さんは2019年3月、廖さんは同4月に入社されました。現在の業務を。
谷「主に社内で、貿易実務、輸入実務、与信管理、ライフサイクルアセスメント(LCA)などを担当しています。CSCとは中国語、売り先のお客さまとは日本語で会話していますね」
廖「入社して最初の1年間は、注文の手配やデリバリー、伝票処理などの事務作業を通して鉄鋼の知識を学びました。それから外出の機会が増え、現在は大阪近辺のコイルセンターで加工の立ち合い同行などをしています。新型コロナウイルス感染拡大前は、CSCの高炉や生産ライン、コイルセンターの工場見学をする機会もありましたね」
(芦田 彩)