1、新型コロナ禍から需要・粗鋼生産急回復
新型コロナウイルス禍の影響で急減した需要が建設・製造業とも急速に回復し、大手鉄鋼2社が一時休止していた高炉を再稼働させ、フル操業に転じた。全国粗鋼生産は暦年、年度ともにで9700万トン前後の見通しと、過去50年の最低となった2020年の8300万トン強から大きく増える。
2、原料高騰受け鋼材値上げ相次ぐ、商慣習見直しも
中国の鉄鋼増産によって年前半に鉄鉱石の価格が急騰し13年ぶりにトン200ドルを超え、後半に原料炭価格が過去最高を更新した。鉄鋼各社はひも付き・店売りの鋼材販売価格の是正に取り組み、自動車向けで21年度下期にトン約2万円など異例の大幅値上げを推進。ひも付き向け商談では交渉期間の短縮化など商慣習の見直しに乗り出し、同様の動きは電炉業界にも広がった。
3、販価改善で高炉・特殊鋼・商社など業績大幅向上
高炉各社は生産体制の最適化など構造改革やコスト削減、販売価格是正によって通期利益予想を大幅に上方修正し、日本製鉄は2013年の統合以降の最高を記録する見通し。JFEホールディングスや神戸製鋼所も業績のV字回復を図る。鋼材価格や資源価格の上昇を受けて特殊鋼大手や総合・鉄鋼商社も過去最高水準の利益を確保する。
4、高炉 脱炭素計画打ち出す、海外も新製鉄法にかじ
日本鉄鋼連盟が2050年ゼロカーボン・スチール挑戦を表明し、日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所が相次いで水素還元製鉄など技術開発、実装を進める方針を示した。海外では特に欧州で水素還元をにらんだ直接還元鉄(DRI)、電炉転換投資が具体化し、低炭素鋼材、グリーン鋼材の発売、ブランド化が進む。
5、鉄スクラップ価格高騰、電炉収益悪化へ
鉄スクラップの価格は国際的に中国や米国の鋼材需要がけん引し、国内は原料の需要増と発生減で需給がタイト化したことで高騰。H2の国内市況はピーク時でトン5万円台後半に到達した。普通鋼電炉は原材料価格の高騰でメタルスプレッドが縮小し、収益が悪化。異形棒鋼の専業メーカーは赤字基調が続いた。
6、中国 脱炭素で粗鋼減産、石炭・合金鉄価格高騰
脱炭素を目指す中国政府は粗鋼生産が前年を下回るよう鉄鋼業界に指示し、史上最高の勢いだった粗鋼生産に7月以降ブレーキがかかった。暦年で10億トン強と過去最高を記録した昨年を5000万トンほど下回る見通し。電力供給制限策が起因し、石炭や合金鉄の価格が急騰。脱炭素政策が国際原料市場を揺るがす新たな中国リスクが生じた。
7、空前の鋼材高、欧米など熱延2000ドル超え
鋼材需要が急回復、価格が過去最高水準に上がった。特にアンチダンピングなど関税の障壁がある米国ではスチールベンチマーカーの熱延コイル相場が8月にトン2000ドルを突破した。欧州でも1400ドル超と最高値更新。米国ではピークアウト後の12月でも1900ドル台、欧州も1000ドル台を保つ。欧米など海外鉄鋼大手は最高益を上げている。
8、日本製鉄が宝鋼とトヨタ提訴 許侵害で
日本製鉄が中国鉄鋼大手の宝山鋼鉄とトヨタ自動車に対し、無方向性電磁鋼板の特許権侵害を理由に損害賠償請求訴訟を東京地裁に10月に提起した。トヨタには電動車について製造販売の差止仮処分の申し立ても行った。カーボンニュートラルに向けて技術開発競争が激化する中、需要家に対する異例の訴訟も辞さない知的財産権保護への強い姿勢は耳目を集めた。
9、企業再編が加速 鋼板電炉2社提携など
中山製鋼所と中部鋼鈑が包括的業務提携を決め、温暖化対策の観点から拡大が予想される電気炉鉄源や厚板生産で連携を開始。日本製鉄の厚板加工の連結子会社2社(サカコー、太陽シャーリング)合併、日鉄建材の道路関連事業と神鋼建材工業の統合、紅中コイルセンター関東とKSサミットスチールの統合など再編が加速した。
10、TREHD発足 タケエイとリバーHD統合
建設系廃棄物処理大手のタケエイと金属リサイクル大手のリバーホールディングスが経営統合し、10月にTREホールディングスが発足した。廃プラスチック問題やCO2排出削減など環境保護への単独での対応は困難と判断し、「同じ志を持つ」両社の統合に至った。資源循環の社会的重要性が増す中、新サービスの市場投入が加速する。