――2021年を振り返って。
「2021暦年の普通鋼平鋼需要は月間6万2000トンペースになり、前年比で3%増加した。これはリーマン・ショック前の07年に比べて45%減少し、新型コロナウイルス感染影響前の19年比では15%減と、依然として回復途上にある。分野別で土木向けは横ばい。建築向けは都市圏の大型プロジェクトや物流倉庫向けが堅調に推移したものの、平鋼の主要用途である中小建築物件向けは景況感の悪化による出件の遅れや延期で低迷した。一方、製造業向けは海外需要がけん引して復調したが、半導体不足に伴う自動車や建設機械関連の減産でここにきて鈍化し、本格回復は22年以降に持ち越す結果となっている」。
――王子製鉄の販売量はどうか。
「21年の販売量は月間2万8000トンで前年比5%増となり、普通鋼鋼材需要と同様の動きとなっている。群馬工場(群馬県太田市)の稼働率は8割程度で推移。圧延工場では600サイズを1カ月のロールサイクルで回しているが、1サイズ当たりの生産量は好転しておらず、生産性向上、諸原単位の改善は進展が遅れ、高コスト状況が続いている」
――鉄スクラップ価格が大幅に上昇し、足元も高止まりが続く。
「H2スクラップは20年のトン当たり2万円から、21年はピーク時で6万円近くまで値上がりし、直近も5万5000円で高止まりしたままだ。品質要求レベルが高い平鋼の生産で多く使う新断などの上級スクラップは自動車減産で発生が減り、入荷は少なく、購入価格もH2との格差が一段と広がった。さらに原油高による電力やガス、輸送費の上昇、中国環境対策などによる合金鉄や電極などの価格アップで、製造コスト負担が増大している。このため、需要家も大変厳しい状況にあることは理解しているものの、安定供給を継続するため、値上げに理解を求めていく」。
「地球環境保全への対策として世界で電炉化が進み、電気炉で高級品種を製造する場合には上級スクラップが必須で、数量確保に向けた争奪戦が予想される。この対策として、群馬工場は需要家の品質要求レベルに応じて、最適配合を実施している。当社は厳格にスクラップを管理しているが、さらに検査や分別を徹底するとともに、嵩のあるスクラップはプレス処理などを拡大している。一方、銅含有などのトランプエレメントの悪影響を抑える目的で、温度管理や圧下変更などの操業技術を駆使している。これら操業条件には設備制約があり、さらなる最適配合を実施するため、圧延機増強なども検討中だ」
――群馬工場の取り組みを。
「NOP(N=ネクスト、O=王子、P=プロジェクト)として、20年に製鋼リフレッシュ工事を行い、投資効果は100%発揮できている。排出エネルギーのミニマム化など操業技術を工夫すれば120%の効果を生み出すことができると考えており、省エネルギーを推進することで、これからは『電炉操業ナンバーワンの省エネ生産』を目指す。例えば電気炉に付帯するスクラップ予熱装置から出る排気の温度が高い場合にはエネルギーロスが生じている可能性があり、改善の余地はある。スクラップ配合、投入エネルギー、予熱装置内のスクラップ滞留時間、操業とそれぞれ最適化を実現する」
「一方、製鋼から圧延までの直送圧延率(HR率)向上と、加熱炉最適制御を推進中。鋼種の多い製鋼工場と、サイズ替えの多い圧延工場とを直結化することは生産性向上、省エネ推進の観点で重要。SS400を主体としたHR率は工程調整などで前年比約5%アップの35%程度まで向上した。圧延機増強に伴うスケジュールフリー化や、加熱炉の改造などでHR率を50%程度まで引き上げる。全ての対策の基本は実作業における3M(ムリ、ムダ、ムラ)を徹底的に低減することであり、着実かつ持続的に改善することによって、『製造実力世界一の電炉メーカー』へと飛躍していきたい」
――『商品力向上』対策にも注力している。
「圧延工場は『商品力向上』対策を推進している。需要家から異形平鋼の特殊形状や、特殊鋼に対する検討依頼が増えている。異形平鋼は製品形状の造り込みが難しく、ロール組替や検査、調整などで時間を要し、生産性が悪い。これを解消するため、21年では第2圧延工場で圧延中に異形形状の測定が可能な断面検査装置を導入・稼働した。これが順調に立ち上がっており、22年は第1圧延工場にも導入する計画。特殊鋼はS45C、S50C、S55Cがメインで、最終製品形状に近い複雑な成形加工を実現する『ニア・ネット・シェイプ』を求めるユーザーが増加している。高炭素で疵が発生しやすい鋼種ながら疵厳格材が求められるため、製造基準を厳格化し、鋳片の疵研削機を増強中で、第1圧延工場の検査ラインも更新して検査精度を高めた。一般平鋼市場が縮減する中で、異形平鋼や特殊鋼は販売量が増えており、ニーズを捕捉するため、商品力向上に取り組む」
――カーボンニュートラル実現に向けた流れが加速している。
「CO2排出原単位は13年に対し、21年度までに工場の省エネ効果として11%減、電力のCO2排出係数を含む総削減率で23%減まで改善した。これから毎年1%以上の省エネを推進し、30年までには工場の実力省エネで20%、総削減率で30%以上に照準を合わせる。各種環境認証の取得も検討する」
――働き方改革も推進している。
「群馬工場は東京電力エナジーパートナーとの電力契約を変更し、4月から製鋼の操業形態を見直した。土曜・日曜・祝日と平日夜間の操業から、金曜日と土曜日を休日とし、日曜日から平日昼夜の連続操業に切り替えた。これは太陽光発電など再生可能エネルギーの普及促進、原子力発電所の稼働停止などに伴う電力需給バランス変化に対応した。平日操業時にはスクラップの受け入れと製鋼工場へのスクラップ搬送がラップする場面がみられるが、受け入れ体制の見直しで対応している。金曜日と土曜日の休日化は従業員から好評で、新入社員の採用にもプラス効果が出ている。このほか、65歳定年延長を実施。来春入社予定の大卒新入社員で女性を多く採用し、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進していきたい」
――DX(デジタルトランスフォーメーション)などの取り組みを。
「DXとして購買や貯蔵品在庫、経理のシステム化を図った。購入品はすべてWEB化し、すべての購入品、貯蔵品がQR管理を通じて一元管理化している。過去の購入履歴などを調査することに多くの時間を要していたが、在庫品の場所や数量がなどをすべて把握することができ、スタッフ業務の効率化、コンプライアンス強化に繋がる。一方、20年に更新したホームページはアクセス数が伸びており、ホームページ内にあるWEB発注システム『e―Net』は使い勝手が向上し、全販売量に占める活用割合は7割を上回る。ミルシートなどの電子化も推進していきたい」
――22年の展望を。
「コロナ感染状況次第ではあるものの、22年の普通鋼平鋼需要は21年に比べて回復を見込んでいる。建設関連は都市圏の大型プロジェクトや物流倉庫などの旺盛な需要に加えて、足元は遅れの目立っていた中小物件の引き合いも増加し、21年下半期の推定鉄骨需要も上半期比5%程度のプラスで推移している。産業関連は外需に牽引され、建機や産機、工作機械などは堅調に推移。半導体や部品の不足影響解消や造船需要増加も期待でき、22年は少なくとも前年比5%以上の増加を期待している。一方、景気の回復で鉄スクラップ価格が高止まりし、とくに上級スクラップの入手困難、原油価格の高騰による電力、ガス、輸送費上昇、さらに合金鉄や電極、耐火物などの入手不安などが拡大する可能性が高く、需要家状況に見合った値上げをタイムリーにお願いせざるを得ないとみている。いかなる状況下でも需要家ニーズとしっかり向き合い、求められる製品を絶えず安定供給し、『さすが王子は高品質、短納期、安定生産で超一流』と評価してもらえるよう、努力していきたいと考えている」(濱坂浩司)