――2021年4-9月期はセグメント利益が前年同期の72億円から256億円に増加した。
「コロナ影響で大幅に落ち込んでいた鋼材需要が回復し、市況上昇も加わって、国内外グループ会社の収益が拡大した。とくに米国はホットコイルが史上最高となるネットトン2200ドル近くまで上昇するなど鋼材市況が高騰し、現地事業会社の収益が大幅に拡大。中国・ASEANなどの事業会社も収益が回復し、海外グループ会社の利益が単体を初めて上回り、業績の回復を牽引した。このような外部環境の追い風も要因ではあるが、これまで当社が打ってきた諸施策の効果が出てきたことや、新型コロナ禍の中でも社員が工夫して頑張ってくれたことも大きい」
――前回予想は上期230億円、通期380億円だった。
「上期実績が上振れし、下期も増益基調が続く見通しであることから、通期予想を450億円に上方修正した。よほどのことがない限り、本年度は07年度の392億円(経常利益)を超えて、過去最高益を更新する」
――市況高騰による在庫売却益など一過性要因を除いた、実力ベースの利益の推移について。
「前上期は72億円で、回復基調に入った前下期が128億円。今上期が256億円、下期予想は194億円。本年度は100億円以上の追い風と想定。実力は300億円程度に回復してきている」
――第7次中期経営計画(21-24年度)の利益目標は400億円。
「実力利益を300億円とすると、今中期の期間でさらに100億円上積みしていく必要がある。重点分野における成長戦略を着実に取り組んでいく」
――重点分野について、電磁鋼板は世界トップのグローバルネットワークをさらに拡充する。
「世界規模で電力需要が拡大しており、方向性電磁鋼板(GO)の加工・物流機能を強化していく。さらにEV化の進展で無方向性電磁鋼板(NO)の需要も急速に拡大している。JFEスチールは西日本製鉄所倉敷地区のNOの生産能力増強を決め、インドのJSWスチールとはGOの合弁事業について検討を進めている。国内はJFE商事電磁鋼板を中心に4拠点で加工事業を展開しており、スリット加工やコア製造能力増強、設備劣化更新を進め、機能強化を急ぐ。海外では、フランスのブルジョアやタイ一宮電機とのアライアンスを含めて、中国、ASEAN、インド、メキシコ、カナダなど10カ国17拠点を展開している。北米では、メキシコのJSMが同市場におけるGO、NOの加工・物流拠点として機能を拡張してきたが、カナダのJSC(旧コジェント・パワー)買収によって南北から米国市場をカバーできる態勢が整った。さらに、メキシコ・バヒオのJSSBでも電磁鋼板を扱うことになれば、運賃100ドル程度で北米各地に輸送できる態勢が整う」
――自動車用鋼材のサプライチェーンマネジメント(SCM)強化については。
「EV化の進展、車体軽量化ニーズの高まりを背景に高張力鋼板の需要が伸びており、日本、中国、ASEAN、米州のグローバル4極におけるコイルセンターSCMを拡充していく。メキシコでは、NJSM(JFEスチールとニューコアの自動車用鋼板合弁事業)に対応するJSSBが稼働。自動車向けの試作材の加工を開始しており、ハイテン対応の広幅スリッターの量産態勢を整えていく。中国・広州では、広州川電がGJSS(JFEスチールと宝鋼グループによる自動車用鋼板合弁事業)と協業を推進しており、基幹システムの刷新と設備増強投資を通じてSCMを強化する。タイ、インドネシアは自動車産業における半導体不足、コロナ影響が続いており、まずは需要の回復と需要構造の変化にしっかり対応していく」
――海外の建材事業も重点分野。
「米国は、西海岸に鋼管メーカーのVEST、鋼管問屋のケリーパイプがあり、またJFEスチールの現地合弁CSIが鋼板、鋼管を製造している。ケリーは、不安定なOCTG分野から撤退し、引き続き堅調な需要が見込まれるガス・水用配管や建設分野への取り組みを推進しており、価格も上昇する中、韓国や欧州など海外からの調達力を活かし、過去最高の収益を狙いたい。北米は市場が過熱気味で、新規事業投資などは冷静に判断していく。ASEANは成長市場と位置付けているが、国によって市場構造が異なるので、鉄筋、形鋼、厚板、亜鉛めっき・カラー鋼板、土木建材、フェンスなど幅広い視点でビジネスを拡大していきたい」
――洋上風力発電ビジネスはJFEグループ全体で取り組む。
「JFEエンジ、JFEスチールとともにグループ全体でサプライチェーンを構築していく。当社は、洋上風力発電で先行する台湾の現地企業と協業し、厚板のSCMなどのノウハウを蓄積しており、資機材調達や巨大構造物の物流などで商社機能を発揮していく」
――投資計画の進捗状況は。
「今中期は4年間で1200億円の投融資を計画している。年間300億円となるが、国内外で新型コロナの感染拡大が続く中、新規投資については慎重姿勢で臨んでいる。コイルセンターなどについては安全・品質対策、設備劣化、システム投資を国内外で徹底的に強化する方針で、4年間で200億円規模の予算を組んでいる」
――「JFEグループ環境経営ビジョン2050」における商社機能について。
「鉄スクラップや還元鉄などについては、高い関心をもって機会を逃さずに対応していきたい。またバイオマス発電燃料となるPKS(ヤシ殻)や木質ペレットの取扱量を足元の年間50万トンから100万トンに引き上げていく。スクラップやバイオマス燃料、スラグなどを循環型社会に貢献する環境資源と位置付けて強化していければと考えている」
――仕入先の多様化もテーマ。
「JFEスチールは構造改革を進めており、年間400万トン規模で粗鋼生産量が減少する。需要家ニーズに応え続けるため、国内外の鉄鋼メーカーから調達しなければならない。また、資機材においてはインドのJSWやベトナムのFHSなど他の鉄鋼メーカーへの取り組みを強化し、調達先からの販売ニーズにも応えていく。このように売りも仕入れもソースを増やしていく」
――鉄鋼物流のリニューアルもテーマに掲げている。
「人手不足、コンテナ不足、船腹不足などによって世界中で海上・陸上輸送が停滞している。国内もトラック・トレーラ―運転手不足や待機時間などの問題が常態化している。内航船が減り、フレートは上昇傾向にある。ヤマト運輸が宅配便市場を開拓し、Amazonは新たな配送システムを確立した。ビール業界では共同物流が進展している。鉄鋼業においても海外では置き場渡しが一般的。重量物を効率的で安全に運ぶことは製造業の国際競争力の維持・強化、つまり国益に直結する。鉄鋼業界、需要業界、輸送業界が一体となって新たな仕組みを構築する必要がある」(谷藤 真澄)