――現会長や取引先の先輩社長から、商習慣に新たな要素を加える必要があると学んだ。
「ずっとうちで買っていただいている以上、長く続く商習慣に新たなエッセンスを入れていかないといけないとお客さまの満足度が落ちるのだと知りました。それに気付くことでとても清々しい気持ちになりました。何もトラブルなどが起きていないから安心するのではなく、新たな提案を常に考える必要性を実感しました」
――助成金の申請書類はご自身で作成されているとか。
「設備関連のためのものづくり補助金はもちろん、新型コロナウイルスをきっかけに助成金や補助金の申請が増えたように思います。もともと知っている情報はもちろん、倉庫で作業をしている社員や加工を行っている社員から話を聞いたり、常務や営業職の社員からも情報を得たりして、会社の現状をひも解いていき、申請書類を作成します。会社のことをさらに知る機会にもなりますし、それによって申請が下りるととてもうれしいですね。自分で作成するようになってから社員との会話も増えましたし、とにかく何か気になることがあれば倉庫を確認する習慣が生まれました。現場の大切さを学びました」
――本社オフィスで働く社員19人中5人が女性です。
「子育てと両立している女性社員もいるため、オフィスの多能工化を実践しています。子供の体調や学校の都合で休むことになっても、他の社員がその分の業務をスムーズにこなせるようにしています。人数が少ないからこそ、日頃から助け合っていますね」
――女性社長として働く中で、女性ならではの扱いを受けているように感じる機会は。
「自分が女性だからか、取引先の担当者が女性社員、女性アシスタントを一緒に連れてこられることが多いと感じますね。最近は総合職で営業職候補の女性が多くいらっしゃるようです」
――鉄鋼業界で女性が働くことについて。
「女性と男性で分けて考えるのは違うと感じています。やる気があり、元気できらきらしていて、夢を語れる社員が沢山いるといいなと思います。うちの会社では性別による給料差もほとんどありません。男女関係なく、興味のある人に飛び込んできてほしいです。仕事に男女差はないと思いますし、私個人としては『男性に負けない仕事がしたい』といつも感じています(笑)。男性の経理や営業アシスタントがいてもいいし、女性の営業職や4トントラックのドライバー、加工担当者がいてもいい。それぞれが適材適所で輝けばいいですね。ただ、女性だから腰掛けで働けばいい、しんどくなったら辞めよう、という考えではなく、定年まで働く覚悟でいる方に来ていただきたいです。こちらも同じ気持ちでお迎えしますよ」
――将来の展望は。
「父のような社長になり、事業を未来永劫存続していくことが目標です。父は実務からは遠ざかっていますが、とてもできた人間で憧れています。娘の私が言うのも変ですが、今でも社員から尊敬されているんです。そんな父のようになりたいです。父だけでなく諸先輩から受け継ぐこの事業を、私の代で少しでも変革・成長させ、最終的には次代のメンバーにバトンタッチしたいですね。個人としては、女性としての幸せをつかみたいのはもちろん(笑)、いつか地域貢献にも携わりたいです。母方の祖父も三木市で丸鋸メーカーの経営をしていたのですが、『会社で働く女性がさらに働きやすいように』と考え、企業内託児所を設立しました。当時、三木市初の保育所でした。その後、地域全体のためになればと同市初の社会福祉法人の保育園になり、今も多くの子供が過ごしています。このことを知って、血のつながりを再び実感しました。私も、社員の永年雇用、地域の高齢者の雇用に強い関心があり、そのようなシステム作りを将来行っていくつもりです。自分の仕事を通して地域に恩返ししたいです」
(芦田 彩)