鉄鋼業界のさまざまなシーンでグローバル人材が活躍している。近江産業(本社=大阪市大正区、水口哲社長)開発部で働くグエン・タン・フォックさんは、技術力の高い日本で仕事に挑戦したいという憧れを持ち、2008年、ベトナムから来日。同年2月に入社以降、正社員として、CADなどのソフトを使用し日々設計の仕事に取り組んでいる。さまざまな製品の外側部分を手掛けるフォックさんに、来日までの経緯や異国の地で働く上での苦労、仕事の魅力などについて聞いた。
――日本に対してどんな印象を持っていましたか。
「小さなころから、ソニーやパナソニックなど多くの日本企業がベトナムでも知られていて、技術力の高い国という印象がありました。大学では機械系の学部で学んだのですが、その際にも日本の技術水準の高さを知る機会が多かったです。また、ベトナム人は日本が好きですし、同じアジア人だから親しみも持っていますよ」
――来日の経緯を。
「大学卒業後、3年ほどベトナムの企業で噴水や自動散水機の設計に携わっていました。それまで海外渡航の経験がなく、24歳くらいのころ、『海外に行ってみたい。技術の優れた日本で仕事にチャレンジしてみたい』という気持ちが高まり、海外採用エージェントに登録しました。若いから失敗しても大丈夫、という気持ちがあり、若かったからこそできた行動ですね」
――採用エージェントのマッチングで出会ったのが近江産業だった。
「日本で働くと決意し、日本語を2―3カ月ほど学んだ段階で、07年に入社試験を受けました。面接で緊張してしまい、ほとんど話せなかったのを覚えています…。指定された図面通りのデータを作る設計の試験は、経験者ということもあり問題なくこなせました」
――来日時に感じたことは。
「入社後、近江産業の工場を見学し、ベトナムでは見たことのない機械の大きさにびっくりしました。仕事以外だと、生活費の高さ、電車の本数の多さ、治安の良さなどに驚いたのを覚えています」
――鉄があちこちに使用されていることも刺激を受けたとか。
「高速道路に鉄が使われていてすごいと思うと同時に、面白さも感じました。ベトナムではコンクリートが主に使われているので、日本のように層になっているものはないんです。また、日本では建築の骨部分にも鉄が使われていますよね。とにかく鉄が多く使われている。さまざまな場所に鉄を供給したり、加工して使ったりしている日本の鉄鋼業界がすごいと思いました」
――入社当時の思い出は。
「日本の生活がどんなものか、日本の会社のルールがどんなものか分からない状態で入社したので、仕事もまだできない中、混乱の連続でした。入社試験の面接官だった方が同じ部署の先輩で、先輩や管理部長を中心にみんなが知らないことを全部教えてくれて、安心できました。仕事面だと、ベトナムと日本では図面の書き方も見方も異なります。その点についても教えてもらいましたね」
――面接でうまく話せなかった日本語も、今はお上手ですね。
「入社したころに、休日を利用してボランティアの方から日本語を学びました。言葉はもちろん、花見や紅葉など日本文化についても教えてもらいましたね。私はベトナム南部出身で紅葉がない地域から来日したため、紅葉ってきれいだなぁと感じました」
――現在の仕事内容を。
「お客さまからいただいた製品の図面を、より製作しやすくコストも掛からないよう板金加工用に作り直しています。基本的に、太陽光発電の蓄電池ボックスや灰皿、制御盤など、さまざまな製品の外側部分の設計です」
――やりがいは。
「自分が設計した図面で、スムーズに問題なく組み立てていただけたときですね。ねじが入りにくいなど、実際に組み立ててみないと分からないこともあります。組み立てていただいた際、設計時に考えていた通りにならなかったこともあります。誤差がないように気をつけながら、組み立てる方が作りやすいよう尽力しています」
――大変なことは。
「蓄電池ボックスを設計した際、表面と背面の2カ所を担当しました。双方に通る配線の穴の位置を決めるのに時間がかかったり、蓄電池なので水が入らないようにフィルターやハンドルを付けたり、吸気と排気がスムーズにできるように工夫したり…。お客さまと設計内容のヒアリングを行うたびに手直しを進め、試作に取り掛かるまで1年掛かりました。先輩と共同で担当していたため周囲には黙っていましたが、とてもしんどかったのを覚えています」
――フォックさんが設計・開発した自社製品のトラック昇降台は、「積み込みが楽になった」「踏板が可動式なので駐車しやすい」と運転手から好評だ。
「皆さまが良い評価をしてくださるのでうれしいです。使用することで工場内の安全性向上につながるので、どんどん使っていただきたいです」
――今後の目標を。
「お客さまが求める製品の設計を、これからも一緒に進めていきたいです。これからも日本に住み続け、日本のお客さまに設計で貢献していきたいです」
(芦田 彩)
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