――10年ぶりの長期経営ビジョン、5年ぶりの中期経営計画を策定した。
「事業環境が様変わりし、ものづくりも変革期を迎えている。社長に就任して3年を経過し、当社の良いところ、補うべきところも明確になった。コロナ禍で活動が制限されたこともあり、約1年間にわたって役員、本部が意見を出し合い、議論をじっくり重ねてきた。10年後のありたい姿として描いた『明日のものづくりを支え社会に貢献する商社』の実現に向け、3年間の事業戦略と経営目標を策定した。あらゆる変化をチャンスと捉え、安定収益基盤に一層磨きをかけながら、さらなる成長を果たすため『新しい世界・新しい時代・新しい価値』の創造に挑戦し続ける」
――事業環境認識と新たなターゲットを。
「鉄鋼市場は少子高齢化と需要家の海外生産シフトによって国内需要が縮小し、海外市場においては地産地消が進んで競争が激しくなる。一方、非鉄製品市場は自動車の電動化を背景とするアルミ化の進展や電装化に伴う銅需要の拡大が期待される。カーボンニュートラル対応策として再生可能エネルギー用燃料、鉄・非鉄スクラップなどの需要増も見込める。『EV・自動車軽量化』『資源循環型ビジネス』をターゲットに設定し、経営資源を投入していく」
――中計の基本方針について。
「前中計ではグローバルビジネスの加速、収益基盤拡大に向けた総額300億円以上の事業投資を計画し、収益・財務体質の改善を目指した。グローバル展開とM&Aなどによる収益基盤の拡大に取り組み、5年間の累計経常利益計画315億円をほぼ達成した。一方、北米エネルギー関連ビジネスでトータル47億円の減損処理を計上し、投資総額は約100億円にとどまり、同業他社との利益率の乖離も浮き彫りとなった。今中計は『収益力の強化』『投資の促進』『商社機能の強化』『経営基盤の強化』に取り組む」
――具体的なテーマを。
「神戸製鋼所グループ中核商社として既存ビジネスの深化を徹底的に追求する。環境リサイクルビジネスの拡大、海外拠点主導のビジネス開拓、新規事業の創出に向けて積極的に投資を行い、商社機能を強化。関係会社の機能最適化、事業構造改革を進めながら収益力を強化。10年後を見据えて、神戸製鋼グループ以外の取引も広げながら、競争力の維持・拡大と新しい価値の提供を目指し、事業構造転換も推進。緩やかでも構わないので持続的な成長を図っていく」
――鉄鋼本部の事業戦略を。
「仕入れソースの多様化、加工機能強化、サプライチェーン強化、建材ビジネスの強化などがテーマとなる。鉄鋼市場では地産地消の流れが加速しており、設備投資をタイムリーに実施し、加工・物流などの機能強化を通じて現地需要を捕捉していく。既存の商材取引に加え、お客さまの半製品・製品の物流などに踏み込み、またミルクラン(巡回集荷)などの機能強化も図ることでビジネスチャンスを創出。中国製の鋼材を北米の企業に納入するなどの新規ルートを開拓してきており、仕入れソースと納入先の双方を広げ、三国間や域内ビジネスを拡大していく。神商鉄鋼販売との連携を強化し、土木・建材市場における国内需要開拓にも注力する」
――鉄鋼原料本部は。
「冷鉄源、バイオマス燃料のビジネス拡大に取り組む。鉄スクラップは70万トン規模の取扱量を23年度に120万トンに拡大する計画。国内では、九州と関東の営業体制を整え、大阪を中心とする3営業拠点で要員を増強して仕入力を強化。長年取引関係のある大手業者とも連携し、日本から韓国や台湾、ベトナム向けなどへの輸出を増やし、米国からベトナムやインドネシア、豪州からインドネシアやインド向けなど三国間も広げていく。神戸製鋼が高炉でのMIDREX技術の活用、電炉による高級鋼製造などの検討を行う方向性を打ち出しており、原料調達・設備などで積極的に関わっていきたい。バイオマス事業は数万トンの取扱量を23年度に30万トン以上に拡張する。海外に集荷ヤードを開設し、PKSなどの仕入網を拡充。植林、木質ペレット製造なども視野にバイオマス燃料供給事業として育成していく」
――非鉄金属本部については。
「加工拠点の拡大、設備増強によるEV・自動車軽量化需要の取り込み、アルミ・銅スクラップのリサイクル、三国間取引の強化などで成長を図る。中国、東南アジアなどで自動車用アルミパネル、半導体装置用アルミ厚板の加工機能を拡充。雑電線スクラップのリサイクル事業を国内外で拡大し、将来的には完全リサイクルの実現を目指す」
――機械・情報本部は。
「機械はメンテナンス事業の拡大による収益安定化を図る。建機部品の海外調達や三国間取引も加速したい」
――溶材本部の取り組みを。
「技術志向によるソリューション営業の強化、M&Aによる規模の拡大を追求する」
――3年間200億円の投資を計画する。
「中国や北米の自動車向け鋼材加工強化に20億円、国内や東南アジアにおけるアルミや雑電線スクラップやバイオマス燃料など環境リサイクル事業に30億円、北米・中国・東南アジアのアルミ加工事業に80億円、国内や東南アジアにおけるM&Aによる流通再編に20億円、海外チャンネル拡大とサプライチェーン強化に50億円を予定する。M&A、新規事業創出のための社長直轄の全社横断プロジェクトチームも6月に立ち上げる」
――経営目標について。
「前中計は平均で経常利益が60億円、ROEは7%にとどまった。最終23年度目標を経常利益95億円以上、ROE9%以上に設定した。経常利益はリーマン・ショック前の07年度が94億円であり、最高益を目指す」
――21年度は経常利益を52億円、純利益を30億円にそれぞれ引き上げる計画。
「20年度は新型ウイルス感染症が世界に広がる中、期初は収益予想すら公表できない混乱の中でスタートした。10月末になって経常利益27億円、純利益8億円の通期予想を発表し、結果は経常利益41億円、純利益22億円と上振れた。北米関連の10億円の減損、メキシコの事業撤退などの減益要因を吸収し、全役員・社員が一丸となって挽回し、19年度並みの利益を確保してくれた。中間配当は15円に抑えたが、期末は35円に上積みできた。本年度は鉄鋼24億円(20年度6億円)、鉄鋼原料4億円(3億円)、非鉄金属17億円(19億円)、機械・情報7億円(12億円)、溶材3億円(1億円)の経常利益を計画。最終23年度は鉄鋼41億円、鉄鋼原料13億円、非鉄金属23億円、機械・情報13億円、溶材5億円と全本部の利益を引き上げていく」
――神鋼グループ以外のビジネスも強化する。
「現在は仕入れ、売り上げの4割程度が神戸製鋼グループ。この比率を低下させずに全体の成長を図っていきたい。神戸製鋼グループ企業から任せてもらえるよう努め、常に他流試合を挑み、機能を磨いて、新たな商流も開拓することでグループ全体の発展に貢献していく」
――「収益認識に関する会計基準」適用によって、売上高が21年度は4000億円規模に半減する。
「単なる仲介取引は売上高から除外することになった。メーカー系商社ならではの機能はしっかり継続したうえで、リスクを取りながら収益構造を入れ替えていく」
――非トレードビジネス比率(経常利益ベース)を経営指標に取り入れた。
「投資を促進し、加工や物流などの事業を強化する。非トレードビジネス比率を前中計の16%から23年度22%、30年度33%へ引き上げていく」
――事業ポートフォリオも変えていく。
「伸びる海外市場のウエートが高まる。鉄鋼原料は鉄スクラップ、バイオマス燃料の取引を拡大していく。伸びるアルミ、銅などの需要捕捉も成長シナリオの一つとなる」
――「経営基盤の強靭化」に向けて、新人事制度を導入する。
「個人が成長し、活躍することによって会社も成長する土壌をつくっていきたい。前人事制度は2003年度に策定したもので、アンケートを取ると中堅から若手の社員がフラストレーションを抱えていることが鮮明になった。キャリアルートの多様化を図り、本部間の人事異動も広げ、地域限定総合職制度も活用しながらダイバーシティを推進。社員が退職するまで高いモチベーションを維持し、成長を続けながら適材適所で働ける環境を整えていく」
――創業75周年を11月に迎える。
「1946年に非鉄製品、工具を中心としたメーカー商社として創業し、鉄鋼製品、鉄鋼原料、機械、溶材、エレクトロニクス関係にまで業容を拡大し、安定収益基盤を築いてきた。世界鉄鋼業は大きく変化し、中国鉄鋼メーカーが台頭する一方で、日本の粗鋼生産量は1億トンを割り込み、8000万トン時代を迎えようとしている。世界が目指すカーボンニュートラルも産業界に大きな変化をもたらそうとしている。これまでの事業に加え、サステイナブルな社会の実現に貢献するビジネスを創出し続けていくことが不可欠であると考え、新たな長期経営ビジョンを策定し、中計を始動させた。メーカー商社ならではの技術力に磨きをかけて、SDGsへの取り組みを加速。環境負荷の低減など社会に役立ち、社員の誇りにもつながるビジネスを拡充し、10年後のあり姿を実現するための挑戦を続け、100周年に向けて持続的成長を図っていきたい」(谷藤 真澄)