――2018年4月に本格始動し、2年半を経過した。
「過去の業務受託会社から責任あるプロフィットセンターに変わり、変化の激しい時代の中でも明確な機能と付加価値を提供することでベストパートナーとして認められ、取引先にとって存在感のある商社となることを目指してきた。事業構造改革をメーンテーマに掲げ、中期経営計画の最終年度である本年度内に方向性を見極める。市場が縮小する国内では、19年4月に発足した住商メタルワン鋼管が圧倒的なポジションを確立し、先行した伊藤忠丸紅住商テクノスチールは2番手だが業績は安定している。コイルセンターについては日鉄物産と共に傘下のサミットスチールとNSMコイルセンターに相互出資し、経営効率化を図っている。中国地区では紅忠サミットコイルセンターを発足させた。ステンレスは日鉄ステンレス、日鉄物産とともに33%を出資するNSステンレスが日鉄ステンレス販売と11月1日に統合する」
――海外事業についても最適解を追求している。
「コイルセンターについては、この5年間でピークを越えた市場にある事業や機能が低下した拠点の対策を打ってきた。象徴的な事例としては、当社では初の海外コイルセンターとして1970年代に設立したシンガポールの ASIAN STEEL社を清算。その後も米国Vicks Metalを閉鎖し、トルコ、ドバイの拠点も現在撤退手続きを進めている」
――純利益は18年度が77憶円、19年度は70億円だった。
「事業移管の過渡期であり、利益水準は全体像を映し出しているわけではないが、19年度は米中覇権争いによって世界経済が後退局面に入り、国内も消費税増税などで需要が落ち込み、とくに後半は収益が悪化した。本年度は新型コロナウイルス影響によってさらに厳しい環境にあり、現時点では大きな減益を予想する」
――組織改正も実施した。
「鋼板、自動車金属製品の2本部制を敷いていたが、本年4月から鋼材本部に一本化し、鋼板、線材・特殊鋼、メカニカル鋼管、特殊管をカバーする体制に見直し、地域戦略に切り替えた。社員は約530人で、事務職が約190人、基幹職は約340人。新体制による専門家集団としての機能を強化し、総合力も発揮していく」
――鉄鋼業界においては構造改革が加速しており、ポストコロナ時代も見据えると経営環境は大きく変化する。
「主力ビジネスの長所と短所をいま一度分析・検証し、強い分野をさらに強化し、弱い分野は合理化などの手を打っていく。SCGMの最大の強みは住友商事グループの総合力。住商のネットワーク、経営資源を自由に使え、新規事業へのアプローチも有利なポジションにある」
――住商は、経産省・東証から『デジタルトランスフォーメーション(DX)銘柄2020』に商社で唯一選定されている。
「住商は全社横断の専門組織『DXセンター』を18年4月に設立し、社内外の人材を集めてDXを強力に推進している。DXセンターには住友商事金属事業部門からも経験豊富な人材を出しており、DXを活用して流通を革新するための取り組みを相次ぎ具体化している。SCGMとの連携施策としては、サミットスチールの大阪工場でローカル5Gを活用した実証実験を来年1月にスタートする。総務省の調査事業に選定されたもので、AI解析を用いた目視検査の自動化、高精細映像伝送による遠隔からの品質確認の実証を行う。SCGMとしては『デジタルイノベーションチーム』が、営業から上がってくるシーズを捉えてデジタル化を図り、いかに新しいビジネスに結びつけるかを検討している。そこで浮かび上がってきた開発テーマや課題を全社のDXセンターに持ち込み、グループ内で横断的な解決策を探っている」
――コイルセンターの業務効率化が課題。
「国内外で多数展開するコイルセンターの『高度化プロジェクト』を約2年前にスタートした。本年4月に発足させた鋼材事業企画部、安全TQM推進部の2部体制で取り組みを進めている。企画部は事業会社の経営管理のグレードアップを徹底的に推進するドライバーの役割を担う。推進部は国内外の製造現場の安全関連情報を即時収集し、品質・在庫管理を含めたTQMを指導している。一方で『デジタルイノベーションチーム』が、コイルセンター用のビジネスインテリジェンスツールの開発を進めている。コイルセンターの全データを目的に応じて取り出して、独自のKPIに沿って業務内容・プロセスを可視化する。サミットスチールの大阪工場をモデル工場として開発し、来年度中に海外のコイルセンターに導入し、事業管理の高度化を図る。並行して取引先とデジタル情報を共有し、在庫・加工・物流の効率的なサプライチェーンマネジメントのプラットフォームとしても活用していく」
――RPAやAI-OCRの導入も進んでいる。
「 3年前から導入を進めている。人事異動によってノウハウが分散することを避けるため、事務職が中心となって、プログラミングから業務効率化まで推進しており、一昨年は住商グループ全社のデジタルコンテストで最優秀賞を受賞した。SCGM本社・支社のみならず、国内・海外の取引先や事業会社に事務職を派遣してプレゼンテーション、導入指導を行っている。提供先からは高評価を受けており、当社の貴重な戦力となっている」
――SDGs・ESG対応も時代のテーマ。
「新中計ではDX対応、AI導入に加えて、SDGsやESGもキーワードになる。既にビジネスシーズ発掘を始めており、環境対策、社会課題の克服を含めて、新たなビジネスを創出していく。
――海外の地域戦略について。
「北米、ASEANを攻める。中国はメリハリをつけて見直しつつ、強い分野は次の一手を打ちたい。とくに米国は、重点戦略地域となる。スチールサミット・ホールディングスがテネシー州、オハイオ州にコイルセンターを持ち、過去10年で飛躍的に成長を遂げたが、昨年のマジックスチール買収によってミシガン州、アラバマ州の拠点を加えた。アラバマ州に建設中のトヨタ・マツダの組立工場への対応が可能となり、ブランキング事業にも出資・参画することから、描いてきた絵がうまくつながってきている。マジックの買収は、自動車分野に加えて鋼製家具市場への進出にもつながり、良いポートフォリオを構築出来た。引き続きマーケットを拡げ、付加価値をさらに高める方向で、新たな投資を検討していきたい」
――ASEANは。
「各国で展開するコイルセンター事業の高度化を図りつつ、メリハリをつけた攻めと守りのスタンスでまだまだ強化できると考えている」
――ベトナムでは薄板建材事業を展開する。
「亜鉛鉄板メーカーのSSSCは、ベトナム・スチールとの合弁会社であり、強固な関係を構築している販売店網を持つ強みを活かし、非価格競争力を備えている。ハノイとホーチミンにコイルセンターを持つが、SSSCとの連係効果も出始めている。鋼材需要が伸びるベトナムは戦略市場と位置付け、必要に応じて付加価値を高めるための投資も検討していく」
――インドは成長が期待されている。
「特殊鋼棒線圧延のMSSSLは、圧延ラインの増設工事がコロナ影響で遅れているが、現地の自動車生産が徐々に戻っていることから、来年以降の事業本格化を目指している。製造拠点を持つインサイダーの強みを生かし、普通鋼分野も含めてチャレンジを続けていきたい」
――2030年ビジョンを策定した。
「2020年ビジョンが「ベストチャレンジャー&ベストパートナー」だった。30年ビジョンについてはワーキンググループで検討を重ね、『Passion for Progress―社会の進化、ワタシの真価―』に決定した。社会は大きく変わるだろうが、付加価値を追求し続け、SCGMならではの真価を発揮していく。イメージとしては、SDGsや脱炭素社会に代表されるESGニーズや、大きく姿を変えてゆくモビリティ市場に対応する新たな鋼材需要やサービスの開発を実現。DX導入による事業の効率化と付加価値を追求しながら、過去に当社が培った経験をフルに活かして鉄鋼ビジネスを通じた社会貢献にも取り組みたい」
――住友商事の古場文博専務・金属事業部門長は「本年4月、住友商事の執行役員に就任した坂田社長を専任社長とした。SCGMは自立性を高め、意志決定の迅速化を図り、独自戦略を展開して鉄鋼メーカーと需要産業に貢献していく」(20年8月5日付、「住友商事・金属事業部門長に聞く」)と期待を寄せている。
「コロナ禍もあって環境は激変しているが、住商の経営資源をフルに活用して、SCGMの全社員が情熱を持って創造的な仕事に取り組み、成長を実感できる会社作りに専念する。住商にとっても収益貢献のみならず、ビジネスチャンスを創出する+アルファがある企業体にしていきたい」
――最後に目指すスケール感を。
「コロナ後の世界によって戦略は柔軟に変えて行かなければならないが、事業移管を着実に推し進め、次期中計の最終年度にあたる23年度には連結純利益を140―150億円まで回復させたい。収益構造、ポートフォリオは変わっていくだろうが、あるべき姿を追求して真価を発揮し、2030年には200億円を目指せるような会社に育てていきたい」(谷藤 真澄)