トップ > 記事特集

新日鉄・住金統合 総合力世界トップへ

<1> 鉄鋼業の収益モデル崩壊

日刊産業新聞 2011年02月07日

 「技術・品質・コストを含めた総合力で世界トップを目指す」(宗岡正二・新日本製鉄社長)、「質と量の最適バランスを追求してきた両社が一緒になるので、総合力で絶対トップになると確信している」(友野宏・住友金属工業社長)。新日鉄と住友金属は、経営統合に向けた検討を開始することで合意し、3日夕刻に開催した記者会見で両トップはそれぞれ、総合力で世界トップの鉄鋼メーカーの地位を確立する強い決意を表明した。

新日鉄と住金統合 世界の鉄鋼需要は拡大を続けるが、原料調達環境は大きく変化し、鉄鋼メーカー間の競争も激化している。原料価格は資源メジャーが支配し、鋼材価格は中国の需給に振り回される。こうした経営環境で安定収益を確保し、企業価値の拡大を図るには、圧倒的な競争力を確保しなければならないという両トップの強い思いが年末に一致し、約1カ月で両社合意に至った。

 新日鉄と住金が経営統合検討を発表した3日、互いの本社ではそれぞれ午後4時過ぎから社員に説明が行われた。新日鉄のある社員は「驚いたが、違和感はなかった。前向きに受け止めている」と語る。住金の営業幹部は「女性を含め、動揺もなく、冷静に受け止めたようだ」という。

 宗岡・友野両社長は、(統合に向けた)話し合いは昨年12月に始めたとしている。だが、その下地はできつつあった。02年からの神戸製鋼所を含めた3社アライアンスの活動を通じ、製鉄所間の交流は深まっていた。特に新日鉄の君津・名古屋と住金の鹿島、新日鉄・広畑と住金・和歌山の各製鉄所では、スラブ供給や相互の応援生産といった通常の活動以外にも、文化交流と称する相互訪問などが活発に行われ、製鉄所間の親近性は高まっていた。昨年11月に起きた鹿島の高炉トラブルでも、新日鉄は大分からスラブ供給を行ったほか、君津からも準備。君津―鹿島間では汎用品だけでなく、特殊品についても仕様の交換を行ったとされる。製鉄所は鉄鋼メーカーにとってまさに現場。その現場間の親近性が、経営統合を後押しした。

 新日鉄が昨年、経営計画を策定した際、経営企画部からは大くくりの製鉄所構想が提案された。八幡、大分など地域的に近接する製鉄所の一体運営を図り、コスト競争力の強化を狙うものだ。地域事情もあって経営計画では採用されなかったが、JFEスチールが倉敷・福山を西日本製鉄所として運営することで、高いコスト競争力を持つことは新日鉄や住金の関係者も認めるところ。統合に向けて君津―鹿島、広畑―和歌山の一体運営なども視野に入ってくるだろう。

 また両社の危機意識を加速させた要因として、これまでの鉄鋼業の収益モデル崩壊も指摘されている。高炉メーカーの本年度第4四半期の収益見通しは非常に厳しい。鉄鉱石や原料炭の再高騰が原因だが、各社の生産はそろって増加する。国内需要の低迷を輸出でカバーする構図で、ピーク時の9割程度という高い操業率になる。こうした高い操業の中で赤字に陥るということは、過去になかったこと。新日鉄や住金は顧客への価格転嫁を進めているが、自動車や造船など大手需要家の抵抗は激しく、「どうしても(値上げ時期が)遅れ遅れになるうえ、(値上げ)要請額を十分に取れたケースは少ない」(自動車担当者)。円高という外部要因も加わり、「高級鋼になればなるほど、海外市場では技術で高めた付加価値をとることが難しくなる」(輸出担当者)。高級鋼路線を維持しつつ、規模も追求せざるを得なくなったともいえそうだ。

 国内需要の低迷、海外需要拡大という構造変化を迫られる鉄鋼業界。何千億円という巨大な投資負担を伴う海外展開は1社では重い。宗岡社長は「経営資源を結集し、得意領域の融合と相乗効果を創出することで、グローバル戦略を加速させたい」と語っており、統合は生産規模、収益を含む、真の意味でのグローバルプレーヤーになれるかの試金石でもある。

 株式市場は両社統合を前向きに受け止めた。会見翌日4日の東証終値は、日経平均が1%の小幅高にとどまる中、新日鉄が9%、26円高の313円、住金は16%、31円高の224円にそれぞれ上昇した。

 合併による事業持ち株会社を来年10月に立ち上げること以外は決まっていない。宗岡・友野両社長は公正取引委員会を4日に訪問し、統合合意を説明した。新日鉄と住金は統合に向けて、大きな一歩を踏み出した。 【特別取材班】


【連載記事内容】
2011/02/07(月) 新日鉄・住金統合 総合力世界トップへ/1/鉄鋼業の収益モデル崩壊
2011/02/08(火) 新日鉄・住金統合 総合力世界トップへ/2/コスト競争力再構築
2011/02/09(水) 新日鉄・住金統合 総合力世界トップへ/3/海外事業のシナジー
2011/02/10(木) 新日鉄・住金統合 総合力世界トップへ/4/海外ライバルの収益力
2011/02/14(月) 新日鉄・住金統合 総合力世界トップへ/5/”日本力”復活への期待

【関連記事】
2011/02/07(月) 新日鉄・住金グローバル市場に挑戦/新日鉄・住金記者会見 一問一答

・ 本連載記事は、記事データベース検索サービス(有料)でも閲覧できます → 記事検索